東京高等裁判所 昭和47年(ネ)350号 判決
行政財産である国有林野の貸付(使用・収益の許可たる性質を有するもの)は、いわゆる国家の私経済作用とは解せられないが、しかし公法行為であるとしても、それが公物の管理行為たる公法上の契約と解せられる場合には、契約自体は成立したがその発効が一定の条件にかかる場合などの外は、貸付希望者に期待権など法律上の権利の生ずる余地のないことは多言を要しない。
また右国有林野の貸付をもって、貸付希望者の申請行為の存在を必要とする外は、その許否の決定及び許可条件が行政庁たる営林署長の一方的な意思によって決定せられる面のあることに着目して、これをいわゆる権力作用たる行政処分の一種と解するとしても、右貸付処分に関する前判示の如き法令・制度の趣旨及び内容に照らすと、それは、いわゆるき束処分でないのはもとより、一般的な法則性に基いて行われるいわゆる法規裁量行為でもなく、右貸付処分は、前叙法令の限界内において、一定の行政目的或いは技術的判断に基いて行われるいわゆる自由裁量行為であると解すべきものである。
ところで控訴人らは、本件国有林につき、これが貸付を受けることあるべき期待権の存在を前提としてその侵害を主張するのであるが、そのためには右期待権なるものが法的に保護せられるに価する権利ないし利益たることを要するものと解すべきところ、叙上の説示より明らかなように、国有林野の貸付行為は、それが仮に権力作用たる行政処分の一種と解せられる場合においても、貸付希望者の申請行為のあることを前提とする外は、上述の如く行政庁の自由な裁量によってその許否が決せられるのであるから、たとえ控訴人らがその主張のようにかねて本件国有林附近で営農に従事し、右国有林において落葉を採取し、且つその営農規模拡大等のため本件国有林の貸付を望んでおり、その希望が客観的にも著しく不相当でないとしても、その事実からだけでは、未だ控訴人らについて、一定の国有林に関し、その貸付を法律的に期待し得べき権利ないし利益が生ずるものとは解し難く、それはいわば事実上の期待利益にとどまるものといわざるを得ない。
従って本件に関しては、控訴人らにつき、未だ被侵害権利の存在を認めることができないから、控訴人らの本訴請求は、すでにこの点において失当というべきである。
四、しかし仮に、本件国有林に関し控訴人らが上記のような密接な関連を有するとした場合、そこに、右国有林の貸付につき、法的に保護せられるべき何らかの権利ないし利益が生じ、本件営林署長の行為はこれを侵害するものであると仮定しても、国家賠償法第一条第一項によれば、同法条の要件を充足するためには、当該公務員の行為が違法たることを要し、且つ右「違法」の概念には単に裁量を誤ったにすぎないような「不当」の場合は含まれないと解するのが相当であるところ、上述したように、営林署長の国有林貸付行為は自由裁量行為であるから、そこには特段の事情のない限り違法の問題を生じない訳である。
(桑原 青山 小谷)